ボラは秋から冬にかけてが旬で、外湾で獲れた鮮度の高いボラは臭みもなく、
刺し身の美味しさはタイにも劣らないと言われます。

 ボラの胃の幽門は「ボラのヘソ」と呼ばれ、こりこりとした食感の珍味。卵
巣を塩漬けにした「からすみ」はウニ、コノワタと併せて「日本三大珍味」と
呼ばれ、高級な酒肴として有名です。

 ただ、東京湾などの内湾で獲れたボラにはドロ臭いものが多いことや、本来
の目的である魚を釣るのに邪魔になることがあるため、ボラを嫌う釣り人も少
なくないようです。

 ボラは古くから食用にされてきた魚で、ブリやクロダイ、スズキなどと同様、
本来は縁起の良い出世魚です。

 地方によって呼び名は違いますが、関東ではオボコ→イナッコ→スバシリ→
イナ→ボラ→トドと名前が変化します。日本人と馴染みが深いボラから派生し
た言葉も少なくありません。

 例えばボラの稚魚名そのものの「オボコ」は、うぶな世間知らずという意味
で使われ、幼い様子や可愛いことを表す「おぼこい」の語源ともなっています。

 粋で勇み肌の若い衆を「イナセ」と呼ぶのもボラの幼魚名の「イナ(鯔)」
からきており、当時魚河岸の若い衆の間で流行した跳ね上げた髷(まげ)の形
をイナの背びれに例えて「鯔背銀杏」と呼んだことや、若い衆の髷の青々とし
た剃り跡をイナの青灰色でざらついた背中に見たてたことに由来していると言
います。

 ボラの成魚は「トド」と呼ばれますが、これ以上大きくならないことから、
「結局」「行きつくところ」という意味の「とどのつまり」という言葉が生ま
れました。

 ちなみに、年若で未熟な人のことを意味する「青二才」も、一説によるとボ
ラなどの稚魚を「二才魚」または単に「二才」と呼ぶことに由来していると言
い、未熟なことを意味する「青」が合わさりそう呼ばれるようになったとされ
ています。