2014年10月

日本人にはあまり知られていない不可解な事実がある。先進国の中で日本だけ、がんの死亡数が増加し続けているという。わが国の医療は世界トップレベル―だからといって、安心してはいられない。

30年で2倍に増えた

「じつは、がんの死亡数が増え続けているのは、先進国では日本だけなのです」

東京大学医学部附属病院放射線科准教授の中川恵一氏はこう断言する。

日本人の平均寿命は女性が86・61歳で世界一、男性は80・21歳で第4位。その数字だけが独り歩きし、日本人は健康なのだと思いがちだが、そう考えているのは我々日本人だけのようだ。

米国で1年間にがんで死ぬ人は、約57・5万人。日本人は約36・5万人だが、人口10万人当たりで換算すると、日本人の死亡数は米国の約1・6倍にもなっている。意外なことだが、日本は先進国であるにもかかわらず、がんが原因で亡くなる人が増え続ける唯一の国。日本が「がん大国」である「本当の理由」はここにある。

いまや日本ではがん患者が増え続け、2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで死ぬ―そんな時代になった。がん研究振興財団が昨年発表したデータでは、1年間で新たにがんと診断された人は74万9767人。がんは、日本人の死因のトップとなっている。

脳卒中を抜き、がんが死因の1位になったのは1981年。その後、がんの罹患数、死亡数ともに年々増え続けている。死亡数は、30年で2倍以上にも膨れ上がった。

もちろん、世界的に見ても、がんは患者数も死亡数も増えている。だが、国際がん研究機関(IARC)の発表によると、世界中で、がんで死ぬ人の65%は発展途上国の国民。先進国では、がんが原因で死ぬ人は減り続けているという。中川医師が続ける。

「欧米では、だいたい毎年5%ずつがん死亡数が減っています。それに比べ、日本では増加が止まりません。1995年の時点では、日本も米国も同程度でしたが、それ以降、差はどんどん開いていっています」

がんの患者数が増えれば、がんで死ぬ人が増えるのは当然のことのように思えるが、そうではない。

先進国の場合、高度な検査設備があることで、従来ならば見つからなかったレベルの早期のがんが発見され、患者数が増加しているという側面もある。だが、その場合、見つかったとしても高い治療技術があれば、がんを治すことができるはずだ。医療設備が整った先進国では、がんによる死亡数が減少していって当然である。

ましてや、先進国の中でも、日本の医療はトップクラス。「とくに手術の技術は、世界一」(前出・中川医師)とも言われる。そんな日本でなぜ、がん死が増え続けているのだろうか。

一般的に言われるもっとも大きな要因は「高齢化」である。

「他の先進国と比較して、日本では高齢化のスピードがものすごく速い。それが、がん死が増えている一番大きな要因だと言えるでしょう。日本のがん死亡者数は、団塊の世代が80代後半になる2030~2035年くらいまでは、増加し続けると思います」(大阪大学大学院医学系研究科社会環境医学講座教授・祖父江友孝氏)

高齢化が進むほど、がんの患者は増える。これはまぎれもない事実だ。

「がんは遺伝子の異常が積み重なることで発症します。その異常の多くは、生活習慣に由来する炎症や化学薬剤、放射線など外的要因によるもの。あるいは、新陳代謝で細胞が分裂する際に、ある一定の確率で遺伝子に異常が起こります。

つまり、長生きすればするほど遺伝子に異常が起きる可能性が増えるので、がんになる確率も高くなるというわけです」(北海道大学大学院医学研究科探索病理学講座特任准教授・西原広史氏)

言ってみれば、がんは老化現象の一つ。年を重ねれば、がんになるのは当然とも言える。実際、日本での統計(国立がん研究センターがん対策情報センター)を見ても、高齢になるとがんの患者数はぐっと増える。50~54歳でがんを患っている人は約3万3000人。それが60~64歳になると約9万5000人、70~74歳になると約12万2000人となる。

食事が原因?

高齢化が進むにつれてがんに罹る人が増え、医療が追い付いていかない。結果、がんで死ぬ人が増えていく。

だが、それだけでは説明がつかない事実がある。

考えてみれば、日本では特に急速に進んでいるとはいえ、高齢化は欧米諸国でも問題となっている。65歳以上の高齢者が総人口に占める割合を示す高齢化率を見ると、日本は世界1位で24・4%。アメリカは13・63%(世界41位)と低めだが、ドイツは21・1%(同2位)、イタリア20・82%(同3位)、フランス17・47%(同16位)など。高齢化しているのは同じだが、ドイツ、イタリア、フランスではがんの死亡数は増えていない。

西台クリニック院長の済陽高穂医師は、アメリカでの例を挙げて、食生活の変化が要因だと指摘する。

「アメリカでは、がんなどの現代病が増え続けて国家の財政を圧迫していることが1970年代から問題視されていました。それで当時のフォード大統領が、栄養問題特別委員会を設置し、国民の栄養と病気の関係を徹底的に調査させたんです。その結果、現代病は薬では治らない。がんを減らすには食事の内容を変えなくてはいけない、ということがわかった。それを受け、FDA(アメリカ食品医薬品局)や米国国立がん研究所が、健康のための数値目標を設定したり、がん予防に効果があると言われる食べ物の作用の研究を進めるようになりました。その国家プロジェクトの成果が実って、'92年以降、増え続けていたがんの死亡数が減少に転じたのです」

アメリカで食生活の改善でがん死亡数が減少、といわれても、どうも腑に落ちない。日本人からしてみれば、現在でも肉食中心の欧米人よりは健康な食生活を送っているはずではないか?

だが、それは大きな誤解なのだという。

「現代の日本人は、自分たちが思っているほど健康的ではありません。食生活の欧米化が進み、肉の摂取量は50年間で約10倍、脂肪分は約3倍にも増えました。逆に野菜や果物の消費量は減り、米国を下回っている。日本人は運動量も少ないし、いまでは多くの米国人のほうが健康的な食生活を送っているとすら言えます。

そもそも日本人と欧米人は体質が異なるので、同じ食事を摂っていても、日本人のほうが糖尿病になる確率が高い。糖尿病になると、インスリンというホルモンの血中濃度が高まりますが、これにはがん細胞の増殖を促す作用があり、発がんリスクが2割ほど高まることがわかっています」(前出・中川医師)

高齢化に加え、生活習慣の要因が重なって、がん患者が増えた。だが、これだけではない。日本人はマジメな人種だと自覚する人が多いかもしれないが、検診の受診率が驚くほど低いのだ。

「たとえば子宮頸がん検診の受診率は、日本では30~40%ですが、米国では84%。検診で見つかるような早期がんは、9割以上が治ります。それが、進行してから見つかれば、がんによって命を落とす人が増えてしまうのは当然のことです」

中川医師はこう指摘する。「がんが見つかったら嫌だから」―そんな理由でがん検診を拒否している人も多いだろう。患者自身の意識の低さもあるが、医者側にも原因はあるという。中川医師が続ける。

「本来は、がんにならないことが一番いいのですが、日本の医師は患者を『治す』ことにしか関心がない。医者は難しい治療をするのが善で、それが本来の医者の姿だと思っているのです。検診をやっている医者は、地位が低く見られる傾向にあります。欧米では検診も医療の一つと考えられ、信頼も高い。その意味で、日本は、予防医学の後進国なのです」

治療法が間違い?

予防という側面で遅れをとっているだけでなく、日本の治療現場における構造の問題もあるという。

「日本では、『がんの医者』といえば外科医が主流です。がんと診断されたらまず外科に行く。ですが欧米では、外科医と放射線科医、抗がん剤を専門とする腫瘍内科医の3者が、その患者にとってベストな治療法を話し合うというのが基本です。

多くのがんでは、手術と放射線治療の治癒率は同じというデータも出ていますが、日本人には『がんは手術で治すもの』という先入観がある。がんを取り残す可能性があると分かっていても、まず手術が選択されることも多い。日本での放射線治療の割合は約25%ですが、アメリカでは60%程度。日本は圧倒的に少ないのです」(中川医師)



手術の場合、放射線治療と比較して患者の身体への負担は大きい。合併症を引き起こして死に至るリスクは圧倒的に高いだろう。にもかかわらず、日本の「手術信仰」が強く根付いているのには、こんな理由もある。

「放射線治療や抗がん剤治療は、通院で行えるようになってきました。いまでは、放射線治療の大半が通院治療です。もともと放射線治療の診療報酬は高くありませんし、とくに東京の病院では、差額ベッド代がないと経営が成り立たないところも多い。身体に負担が少なく、通院治療ができれば患者さんにとってはベストですが、病院も経営のことを考える必要がある。手術をして、入院をしてもらうほうがありがたいのかもしれません」(中川医師)

日本では、「手術ができてよかった」と思われがちだが、必ずしも、手術ができることが患者にとってベストな治療法というわけではないのだ。その治療によって命を縮め、がんで死ぬ人が増えているという可能性も否定できない。

「いまの日本の医療は、医療者の立場からしか考えられていないものが多いと感じます。今の医療水準ではがんを確実に防ぐことはできません。けれど、がんを患ったとしても、がんが原因での死を迎えることは避けられるはず。患者の視点に立った医療が提供できれば、がんで死ぬ日本人を減らせるはずです」(順天堂大学医学部病理・腫瘍学講座教授・樋野興夫医師)

がんの死亡数を減らせれば、日本は本当の意味での健康長寿国になれるだろう。

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 噴火した「御嶽山(おんたけさん)」の状況を伝えるニュースで、NHKのアナウンサーやベテランキャスターの小倉智昭さんが「みたけさん」と読み間違えるミスが続いた。

 「何やってんだ」「しっかりしろ」と視聴者から厳しい叱責を受けることになってしまったが、読み間違えてしまうのもしょうがない背景があるようだ。

■スタッフが「おんたけさん!」と注意

 2014年9月29日、「正午のニュース」(NHK総合)で高瀬耕造アナウンサーは「みたけ、おたけさ、みたけさんの噴火で―」とニュース原稿を読み始めたところ、画面外のスタッフから「おんたけさん!」と注意が入った。

 同じく29日に放送された情報番組「とくダネ!」では、司会の小倉さんが現場のリポーターに中継をつなぐ際、「現在、どんな活動が行われているのか。みたけさん、いや、おんたけさんの―」と間違えてしまった。2人の読み間違えに対し、「この期に及んで御嶽山をみたけさんだなんて」「もう引退したほうがいいんじゃない?」などと怒りの声をツイッターに投稿する人もいた。

 しかし、2人が間違えてしまったことは、同情の余地がない訳ではない。首都圏以外の人にはなじみがないかもしれないが、東京都青梅市には標高929メートルで気軽に登山が楽しめる「御岳山(みたけさん)」という山がある。

 一文字違いということで、「御岳山が噴火するはずないし!と思ったら御嶽山」「多摩県西部民にとって御嶽山と御岳山はややこしい」と、今回の噴火では勘違いした人が相次いだ。

地元でも「御嶽」「御岳」と統一されていない

 新聞報道では、噴火当初に「御岳山」と表記していた社がある。朝日新聞は公式ツイッターで「【おことわり】これまで『御岳山』としてきましたが、今後は『御嶽山』と表記します」と27日に投稿。中日新聞も同様に「御岳山」と表記していた。

 新聞表記について、日本経済新聞の記事審査部アカウントは「噴火当初、御嶽山でなく御岳山と書いた新聞社もあります。嶽は岳の旧字で、新字の御岳山の方が表記の原則に忠実ともいえます」と解説している。

 また、御嶽山の1570メートル地点から7合目までをつなぐロープウエーは「御岳ロープウェイ」が運営。「御岳」という名前の旅館もあり、必ずしも地元で統一されているわけではない。「昔は山の名も『御岳』だったのでは」と漏らす年配者もいる。東京の御岳山の方でも、最寄駅はJR東日本の「御嶽駅(みたけえき)」だ。

 日本には「御嶽山」「御岳山」と名の付く山がいくつかあり、「おんたけさん」「みたけさん」「みたけやま」と読み方はさまざま。例えば埼玉県の秩父市などに跨る「御岳山」は「おんたけさん」と読む。

 高瀬アナの出身地・兵庫県、小倉さんの出身地・秋田県には「御嶽山」があり、どちらも「みたけさん」と読むようだ。こうした点も今回の読み間違えに影響したかもしれない。

  「“腰痛持ち”が全国で約2800万人もいる」ことを報じて話題になった。しかし、磁気を用いて体内を調べるMRI検査などで原因をはっきりと特定できる腰痛は、実は全体の約15%しかなく、残りのおよそ85%は、検査をしても原因が何か特定できない『非特異的腰痛』だという。

 だが、約85%の“原因不明”腰痛の人も、検査で原因が特定できなかったからといって、諦めるのは早い。あくまで“検査で引っかからない”だけであって、最近の研究では、いくつかの原因が考えられている。次の2つが代表的な原因。

“腰回りの捻挫”ともいわれるギックリ腰が原因不明とは意外かもしれないが、MRIなどの検査では異常は見つからない。和歌山県立医科大学教授の吉田宗人さんが解説する。

「ギックリ腰は背骨の関節である『椎間関節』に起こる捻挫で、炎症を起こすこともあります。安静にしていれば通常は1週間~10日で自然治癒しますが、場合によっては慢性化することも」

 驚くべきことに、“精神的な苦痛”が腰痛を引き起こすことがわかってきている。

 平木クリニック院長・平木英人さんは、ストレスと腰痛の関係をこう説明する。

「心療内科の分野では『転換性障害』と呼ぶのですが、ストレスをうまく発散したり、解消できない人のなかには、溜め込んだストレス(精神的苦痛)を肉体的苦痛に転換して、痛みを“すり替えて”しまうことがあります。腰痛についても、これと同じカラクリであると考えられます」

 腰が痛いと安静にしたほうがいいと思いがちだが、非特異的腰痛の場合、ギックリ腰の発症直後などを除いて、多くの場合は普段通りの生活を送ったほうが回復が早まるという。

 また、疲労や筋肉の衰え、喫煙などの生活習慣も“原因不明”の腰痛を引き起こすことがわかってきた。

 多くの人が悩まされている腰痛。世の中では、いろいろな腰痛に関する言説が飛び交っているが、間違っているものも少なくないという。

 たとえば「腰痛は命にかかわる病気ではない」というもの。いくら痛みがひどい場合でも、腰痛は大した病気でないと考える人が大半。しかし、がんや、感染症の化膿が原因の場合もあるので、命にかかわらないとは限らないというのは、2012年に発表された『腰痛診療ガイドライン』作成を手がけた福島県立医科大学会津医療センターの白土修さん。

「腰痛は原因が特定できないものが85%を占めます。骨折などの急性の痛みは別として、3か月以上痛いなら、MRIで検査するなど、重篤な原因がないか確認を」

 また、「腰痛の時はじっとして安静にすべき」というのも間違いだという。

 従来は「大事に」と、“とにかく安静”を促すのが腰痛患者への治療方針だった。しかし、前出・ガイドラインでは、「ベッド上安静は効果が低く、必ずしも有効な治療法とはいえない」とされ、これを機に、日本の腰痛治療の方針が180度変わった。

「欧米では1980年代から急性腰痛を発症した場合、2日間だけ安静にした患者群と、10日以上安静にした患者群を比較すると、前者のほうが回復が早いとする研究データが。この結果を受け、ようやく日本でも導入されました」(前出・白土さん)

 これについては柔道整復士の酒井慎太郎さんと、整形外科医の井尻慎一郎さんも同意見。

「動くことによって血流がよくなり、免疫力がアップ。交感神経の亢進を抑えてくれるので、精神面でもいい効果が期待できます」(酒井さん)

「安静にしていると、次に体を動かすときに、痛みを感じやすくなります。ですから、痛くても我慢できる範囲で動かすことで、痛みを小分けにできて、次に体を動かしやすくするのです」(井尻さん)

 つまり、ベッド上で安静にするより、痛みをこらえられる程度で我慢しながら動かすほうが、治りが早くなるのだ。

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